潤んだ瞳、一文字に涙をこらえて結んだ口。
きっと声を上げて泣きたいはずなのに…彼はそれでも無理をして、にっこりと笑った。


「だーめ。」


そしてもう一度…私の髪をくしゃっと撫でると、コツンと人差し指で軽く額を弾いた。


「もっと苦労してる人が側にいるから、オレは自分の為に泣いたら駄目なんだ。
フランちゃんもそう、ハインツだってそう。」


それからオズは私をまっすぐに見た。
もう、そこには涙は見えない。


「…オズ。」


彼はもう一度笑った。


「…オレの事より、ハインツの事を心配してあげて。きっとアイツ、今が一番辛いときだと思うから。」


そう言って私を立ち上がらせると…オズは私の手を引き、近くの小川まで連れて行って。


「それが、恋人の役目でしょっ!」


私の背中を軽く押す。

そう…その小川には、水を汲むハイネの姿があって。
私はもう一度オズを振り返った。

……オズ…。

行って行ってと私に手を振るオズを見ながら…私は声を出さずに、


「ありがとう」


と彼に告げる。

オズの優しさ。

…何処かへ歩いていく彼の後姿を見送りながら、私はその優しさを受け取り…ハイネの元へと足を進めた。