「――結構です。
わざわざご多忙中に打ち合わせして頂かなくても」






――編集はサラリーマンだ。


何かの本にそうあったが、まさしくその通りだと思う。


例えそれが、どんなに理不尽な文句だとしても、必要であれば頭を下げる。

何度でも。



「鏡華さん、そんなこと言わずに。今日プロット持ってきてくれたんでしょ?

せっかくだし、直接打ち合わせしてきましょうよ。

先程の件はすみませんでした。一時間も待たせてしまって……反省してます。

本当に申し訳ありませんでした」


深く頭を下げる。


できれば、ここで許しをもらいたい所だ。


根に持たれたら、後々までグチグチ言われて、別の仕事にも影響が出てしまう。


しかし、編集の間で扱いに気をつけろと囁かれている彼女のことだ、彼女の態度は頑なだった。



「結構です」


言って踵を返すと、つかつかと編集部を出て行ってしまう。


そうして彼女の姿が見えなくなると、思わず溜息が漏れた。




また、今夜辺りにでも連絡して、許しを乞わねば……。


残業が確定した瞬間だった。