「否定はしないが、」


《苦い思い出》って言うけど、あれは嘘だと思うぜ。


実際は口の奥が酸っぱくなる。


「俺は気付いた。素直さは国宝であることに」


「何かあったんですか」


「鼻で笑うんじゃねーよ」


「いや、ははは、すみません」


何かっつうか、あり過ぎて限定なんてできねーっつの。



「でもわかります。タイプというより、相性ですね。山崎さんはそういう方とが一番合う気がします。

作家さんで言うと――そうですね、かんのさん辺りとか。僕なんかは鏡華さんと一度でいいから仕事をしてみたいものですが」


「っげぇ」


思わず拒否反応が漏れちまった。


ありゃあ、黒歴史の最高峰だぜ。


主張があそこまで強すぎる作家は俺の手には負えねー。



「おま……今のは相当のマゾ発言だぞ」


「そうですか?……そうかもしれないですね。けど彼女とこの仕事について熱論を交わして、

自分の価値観を根本から見直してみたい」


「あ、そー……」


そんなモンかねぇ。


まぁ、アイツと言い合って負かされない男はいねーと思うけどよ。


俺も自分の意見を通すのに一苦労二苦労なんてもんじゃなくて、編集の役割もとい特権で捻じ伏せたりしたもんなぁ。


「しっかしあのプライドの高さっつったら、標高一万メートルはありそうだぜ。

余裕でエベレスト越えて世界一、その名も女王峰、ってェ!」


椅子の脚が蹴っ飛ばされたついでに、背もたれから乗り出していた頭に何かが当たった。