理不尽に苛立つあたしを余所に、礼が再び口を開いた。

「ちーが迷子になんのなんていつものことだし、無事だったんだから別にもういいんだけど」

正座しているあたしの足を見下ろす。
そして、続けた。


「怪我してること、なんで言わなかった?そもそもなんでそんな無茶したわけ?」

――…それでか。
別に迷子になったり、言うこと聞かなかったことを怒ってたわけじゃなかった。

その理由を聞いて、驚くと同時にひどく安堵した。
礼はやっぱり、どこまでも“礼”だ。
過保護で心配性で、だれよりあたしを見ていてくれる。


「…なに笑ってんの?怒られてるって自覚ある?」

無意識だったけれど、笑いが漏れていたらしい。
それを見て、呆れたようにため息をつく礼が、不意にまた険しい表情に戻って。


「なんで、俺に言わなかった?」

なんで?
なんでって、それは…

「…だって、礼怒ってたじゃん」

「はぁ?あん時はまだ怒ってなかっただろ」

「怒ってたよ!…てか、あの日からずっと」


――あの日。

“きらい”と告げた日。
はじめて別れるって言った日。
涙を流してしまった日。
礼を、信じられなかった日。


「別に、怒ってなんかなかったって」

「この期に及んで話濁さないでよ」

話を濁さないで。
目をそらさないで。
“あたし”を見て。

あたしも、そうするから。
逃げずにちゃんと、向き合うから。