玄関のドアを開ける。
しっかりとチェーンロックは掛けて。
「ちー、俺が悪かったって。中入れてよ」
そんなこと思ってないくせに。
あたしも、もう大して怒ってないくせに。
――でも、ですよ?
いくら礼が会いに来たからって、簡単に中に入れるのは癪じゃないですか?
「あの子は口説き落とせたんですか」
「口説いてないよ、酔ってただけ。勝手に携帯触らせるような隙見せたことは謝る」
“俺が千咲以外を口説く訳ないだろ”
外は雪が降りそうなくらいの低温。鼻を啜りながら、玄関のドアにもられて座り込む音がした。
――あぁ、もう。
こんなこと言われて無視できるわけないじゃん。
それにこんなときだけ“千咲”って呼ぶだなんて、卑怯にも程がある。
チェーンロックを外して、ドアを開く。
あたしの部屋のささやかなセキュリティはついに陥落した。
「オムライスのためだからね!それに風邪でも引かれたらたまんないし」
やっぱり可愛くない言葉しか出て来ないこの口が憎らしい。
それなのに、「ちーだなぁ」ってくしゃっと笑う。
何が“あたし”なのかは全く理解不能だけれど。
でも、その笑顔だけは。
他のどの女にも見せてないって。
信じてもいいよね?
