――ばかだな、あたし。
誰に何を言われようと、ただ目の前の礼だけを信じていればよかったのに。

“心の底では俺のこと、信用もなんもしてねぇだろ”

あの日、礼が放った言葉。
彼にあんなことを言わせたのはあたしだ。
思い出せば思い出すほど、自己嫌悪に陥ってしまいそうになる。



「礼のやつ。相当へこんでたよ?」

“ちーにきらいって言われたって電話かかってきたし”

俯くあたしに、煙草を吹かしながら楽しそうな声をかける大地くんは悪戯っ子のような顔をして意地悪く笑う。

あの日の記憶が蘇る。
そーいえば、流れでそんなこと言ったような気がしなくもない。

「え、別れるって言ったほうじゃなくてそっちなの?」

「あぁ、それも言ってたけどどうせ別れる気ないから問題ないって。それでもきらいはへこんだらしいよ?」


じゃああれは、怒って帰ったんじゃなくて(もちろん、それもあるんだろうけど)、“きらい”にショックうけてたとか?


勝手な想像だと思うのに、もし本当だったらって思うと可笑しくてたまらない。

「あいつは本当に、ちーちゃんのことになるとキャラ激変するからね」

別に、礼が過去の彼女(そうでない他の女も)にどんな風に接してきたかなんて知りたくもないし、だから、“ちーちゃんのことになると”の正常な判断はできないけど。
大地くんが言うなら、そうなのかもしれない。



「ちーちゃんが無茶する度にいちいちすげぇ心配してさ。礼が早死にしたら、八割方ちーちゃんのせいだよ」

“まぁ、今まで散々女遊びしてきたんだし、ちーちゃんのことくらいはせいぜい悩めって気もするけど”

意地悪く、笑みをみせる。