バスで過ごすこと1時間。
あたしを含め、初めは眠そうにしてた人もすっかり目を覚ましたことで、車内はよりいっそう賑やかになり、あちらこちらからお菓子だの、チューハイだのが回ってくる。
「いーなぁ、飲みたーい」
「ま、どうせ禁止されてますからね」
栞とぼやいていると、前の席からくすくすと可愛らしい笑い声。
「ちーさん、栞ちゃん。チューハイの代わりにはならないだろうけど。よかったらこれどうぞ?」
――前の席、もちろん蘭さん。
そして華奢なその手にはバスケットが。
「うわぁ。超おいしそう!蘭さんが作ったんですか?」
「昨日あんまり暇でね」
「やばっ!めちゃくちゃおいしい!ココナッツですか?」
興奮する栞の手には香ばしいクッキー。
「ちーさんもよかったらどうぞ」
そう言う蘭さんのお言葉に甘えて。
クッキーをひとつ頬張る。
…なんてゆうか、うん。
“めちゃくちゃおいしい!”わ。
料理はともかく、あたしはお菓子の類が一切できない。
そういえば、バレンタインのチョコもひどかったっけ…
『市販のチョコを溶かしただけなのに、なんでこんな味になるんだ』って礼に言われて、喧嘩になったのを思い出す。
「みんなもよかったらどうぞ」
“みんな”と言いながらも、真っすぐに礼と大地くんの元へ向かう。
「あ、これ懐かしい」
「蘭、よく作ってきてたっけ」
二人の言葉に『覚えててくれたの?!』と驚きの声をあげる蘭さん。
…高校時代の思い出のクッキーをわざわざ作ってきたの?
絶対“暇だったから”じゃないじゃん。
そんなことを考えて、思わず不貞腐れる。
――なんか、やだなぁ。
自分がどんどんやな女になってく。
これ以上自己嫌悪に陥りたくなくて、毛布を頭まで被って、寝たふりをした。
