後方へと移動すると、二人席が通路を挟んで二つ残してある。
多分、あたし&礼、栞&大地くん的な感じで残してくれてたんだろう。
妥当っちゃあ妥当。
当たり前といえば、当たり前。
でも、今はそんな気遣いも本当に余計なお世話。
ばらばらに1席ずつあればよかったのに。
もしくは、最後部の五人席あたり空いてればいいのに。
――まさに、気まずさMAXハート
「ちさ、窓際座るでしょ?すぐ車酔いしちゃうんだから」
微妙な沈黙を破ったのは、軽快な栞の声。
さりげなく助け舟を出してくれた。
荷物をとっとと上に入れて、通路側の席にご着席。
“え?あぁ、うん”
なんとも曖昧なあたしの返事。
列の反対側では、いかにも渋々といった様子で礼と大地くんが腰掛ける。
『何で野郎の隣に座らなきゃいけねぇんだ』と、今にも聞こえてきそうな表情で。
「ちーさん、栞ちゃん。おはよう」
上品なベージュのAラインコート。
いつもと違ったローヒール。
それに、今日もやっぱり完璧に巻かれたキャラメル色の髪。
前の席から顔だけを覗かせて、挨拶をしてくる美女――蘭さん。
「おはよう…ございます」
あの日以来、蘭さんと顔を合わすのは今日が初めてだった。
何事もなかったかのように、至って普通に振る舞う蘭さん。
それとは対照的に、動揺しまくりのあたし。
こんな些細なところでさえ、この人との差を見せつけられる。
これが“大人の女”だと言うのなら。
あたしは一生かかったって、なれそうもない。
