「礼っ?!」

勢いよく医務室の扉を開けたると、中にはベッドに横たわる礼。
それに、なぜか傍の椅子に座る蘭さん。
メールをくれた大地くんの姿はなかった。


「大丈夫よ。まだ熱はあるけど、薬も飲んだし。きっとすぐに、」

「――ちー…?」

容態を説明してくれていた蘭さんの言葉を遮って、あたしの名を呼ぶ礼。
起き上がろうとすらしている。
咄嗟にベッドへと飛んで行った。


“大丈夫?風邪引いたって…”

髪を撫でながら聞く。
額には汗が滲んでいて、呼吸も荒い。

「んな顔すんなよ。ただの風邪じゃん」

「でも…」

「“でも”じゃない。ちーがつきっきりで看病してくれるなら風邪も悪くねぇし」

ニヤつきながらそう言って、あたしを引き寄せる。
あわよくば、キスまでしそうな勢い。

こいつ、ほんとに風邪引いてんの?
苦しそうに寝込んでたくせに。
唇を拒んで、無理矢理ベッドに押し戻す。


「大地が車回してきたよ!送るから、ちさも礼さんも乗って〜」

いきなり扉が開いたかと思うと、そう言いながら栞が顔を覗かせた。
熱にかまけて、どこかれ構わずいちゃつこうとしてくる礼を無理矢理車に押し込んで。
礼と自分の荷物を取りに、もう一度医務室へ戻った。





――ガラッ

扉を開くと、ヴィトンのトートを肩にかけて部屋を出ようとする蘭さんの姿。
テンパって礼のことしか考えられなかったけど、あたしが来るまで蘭さんが礼に付き添ってくれてたんだ。
お礼くらいは言っておきたかった。


“蘭さん”

声をかけ、呼び止める。
ゆっくりと振り向いた彼女。
その表情は、いつものような綺麗な笑顔ではない。