部屋の中心にあるガラスのローテーブル。
そこに置かれたiPhoneが震える。

ディスプレイには【礼】という文字。
ほんの20秒前までの不機嫌さが、たった一文字の漢字で一気に吹き飛ぶのだから、もはや救いようがない。

そして、礼専用に設定してしまったピンク色のライト。
素直じゃないくせにそういうところが可愛い、と親友に散々からかわれたことを思い出す。


『ちーちゃん、機嫌なおった?』

奴からのメッセージなんて見るつもりはなかったのに、なんの操作をしなくとも内容が見えてしまう現代アプリの高性能が憎い。

余談ですが、“ちー”というのはあたしの愛称である。
名付け親である実の両親にだって“ちー”としか呼ばれたことがないわけで、今さらなんと呼ばれようと一向に構わないけれど。


あ、ご説明が遅れました。
このメールの送り主とあたしは絶賛喧嘩中なのです。
(あのやさぐれた人物紹介もそのせいでございます)

飲み会に行った彼からどういうわけなのか、女といちゃつく写メが送られてきて。
結果的には送ったのは彼ではなく、酔っ払った同級生だと弁解してきたが、そんなことであたしの機嫌がなおるはずもなかった。