「――礼?」

翌日、バイト上がり。

迎えの電話するか、と携帯片手に裏口からでたところで。
正面に堂々と停まっている、見慣れた黒いバイク。

と、それにもたれかかって煙草を吹かす、これまた見慣れた超絶セクシーな色男。
いっそのこと『カタログ撮影ですか?』と聞きたくなるほど、絵になっている。


――くそぅ、かっこいい。
もう少しこの美しい光景を覗き見したくて、声をかけるのを躊躇う。

ジャっと煙草を地面に踏みつける砂利の音。
彼の足元を見ると、同様にいくつもの煙草の残骸が散らばっていた。

どれだけ待ってたんだろう?


「こんなとこに停めてー。ただでさえ目立つんだから、駐禁切られるよ」

減らず口を叩きながら、礼とすました“彼女”に近づいていく。
(こんなごつい鉄の塊を彼女と呼ぶのがいかにも礼らしい)


「お姫様が迎えに来いって言うからさ。たしか21時あがりだっただろ?」

「…別に外で待ってろなんか言ってないよ。寒いでしょ、何月だと思ってんの」

バイト時間を覚えてくれてたことも。
本当に迎えに来てくれたことも。
鼻や手を赤くしながら待っててくれたことも。

どれも、いっそのこと跳び上がりたいくらいうれしいのに。
可愛くない言葉ばかりがぽんぽん飛び出す。



“可愛くねぇなぁ”

ふっと優しく笑って。
あたしの肩につくくらいのショコラ色の髪をくしゃとする。

素直にお礼なんて言えないから。
赤くなった礼の手をそっと温めるように握った。