「明日、久々にちーのロールキャベツ食いたいな〜」

しれっとこんなことを口にする男。
それとは対照的に、肩式呼吸でベッドの上に突っ伏す女。
とてもじゃないけど、動くことはおろか、立ち上がることもできない。

そんなあたしに向かって。
『ロールキャベツが食いたい』だと?!

お前は鬼か!悪魔か!閻魔様か!!

だいたい、誰のせいでこんなになってると思ってるのよ。
宣言通り、動けなくなるくらい散々あたしに“オシオキ”しておいて、自分は疲れきった表情なんて微塵も見せない。

こいつのカラダの構造は一体どうなってるんた。



「無理。どっかの底無し性欲男のせいで、全身疲れきってるから」

明日は夕方までフル講義のあと、休む間もなく速攻でバイト。
今からこんなに疲れててどうする、自分。

「な、いーじゃん、作ってよ。最近寒いし、あったかいの食いたい」

顔を背けて若干不貞腐れるあたしを、後ろから抱きしめる礼。

――あぁ、もう。
こんなことされたら拒めないじゃん。


「…バイト終わる時間に迎えに来てよ?キャベツ重いから、あたしじゃ持てない」

結局いつも、こう言う羽目になるんだから。
礼の前であたしに拒否権なんてものは存在しないんじゃないの?

仮にも好きな男に“お願い”だなんて言われたら、首を縦に振るしか術がない。


「もちろん。カボチャの馬車でお迎えにあがりますよ。バイト終わるまで、中でずっと仕事ぶり見てる」

より強く抱きしめてこめかみにキスを落としながら、また歯の浮くようなセリフを平然と吐く。


「見てるとかやめて、絶対やだ!営業妨害で追い出すから!」

“はいはい。分かったからもう寝ろ”

そう言われた頃にはすでに眠気もピークに達していて。
寝かしてくれなかったのは誰だ、というあたしの文句が礼に届くことはなかった。