わがまま娘の葛藤。




あたしの頬を優しく触っていたはずの綺麗な礼の手が、今度は力強くあたしの顔を引き寄せる。
そのまま、礼の唇に乱暴に重ねられた。

口の中を這い回る、熱い舌。
外の冷気のせいで嫌でも零れる白い息が、妙に色っぽくて。
ただでさえ、酔ってほてっているあたしの顔が、更にピンクに染まる。



「…嘘吐けよ。口ん中に酒の味が残ってる。あんだけ飲むなって言ったのに」

飲酒確認のためだけに、軒先でこんな激しいキスですか。
別に、舌まで入れる必要なかったんじゃん?

そうクレームを入れてやろうかと思ったけど、まずは、礼の機嫌を直すのが先決だ。


「…ごめん。でも、ちょっとだけだよ。全然酔ってないし」

てっちゃんのために、名前は出さないでおくことにした。
せっかくの好意を、巻き込んじゃったら悪いもん。


「大体、こんな時間に出歩くなって言っただろ」

それでも直らない、礼の機嫌。
むしろ悪化した。

「それも、ごめん。…だって寂しかったの。礼のいない部屋に一人でいたくなかったんだもん」

いつもより、ほんの少し素直になってみる。
礼の胸にもう一度しがみついて。
そんなあたしを、優しくぎゅっと抱き返した後、その体をゆっくり離す。

抱き締められたのなんて、ほんの一瞬だったのに、その体温が離れただけで、体感温度が一気に5℃くらい下がった気がする。


前髪を上げて、剥き出しになったあたしのおでこをぺちっと叩く。

「痛っ!」

「こんくらい序の口。二度と酒なんか飲みたくないって言うくらい、一晩中オシオキしてやる」

にやりと笑う礼。

何それ、何それ、何それ!
恐すぎるんですけど!!

高橋名人も驚くくらいの速さで、口をぱくぱくさせるあたしの手から、半ば無理矢理鍵を奪って、部屋に引き摺り込まれた。