車に戻っても、家に帰っても。
礼はどこか様子が違っていて。

一見、いつもと変わらないんだけど、時折見せる深刻そうな表情がどうしても気にかかる。


――ラブコメなんか借りてこなきゃよかった。

いっそ戦争ものとか悲恋ものとか、そういうシリアスなものにすれば、礼のことも映画のせいにして、あたしも堂々とため息だってつけたのに。

テレビの画面には、全身ピンクのブロンド娘が、恋に仕事に奮闘中。
あたしの1番のお気に入り映画。
でも、今日は全然気分が上がらない。



「礼、あたし眠くなってきた。先に寝てもいい?」

これ以上この空気に耐え切れなくて、最終的な手段は“睡眠”。


「バイトきつかった?いいよ、おやすみ」

優しく、そう言って。
ベッドに潜り込んだあたしの髪を撫でる。
こんな微妙な空気でさえ、礼が撫でてくれると安心して、すぐに眠りについた。



――でも、やっぱりおかしい。
いつもなら、礼はこんなにあっさりあたしを寝かせたりしない。

『ちー、眠いの?でもすぐに眠気なんか吹っ飛ぶと思うよ』
とかなんとか言い出して。
驚くべき速さと正確さであたしを押し倒し、すぐに部屋着だの下着だのが床に散らばるのに。

(そして、本当に眠気なんか吹っ飛ばされるのだ)


聞いていいの?
聞くほどのことじゃない?
だから、礼も何も言わないの?

そう言おうと思ったけど。
返ってくる答えが予想できなくて、臆病なあたしは夢の中に逃げた。