「…いこっか?」
「うん…」

僕が言うと、沙雪は不安そうな顔をして立ち上がった。

久しぶりの父親との再会が、こんな形でやってくるとは思わなかった。
僕だって怖いけど、隣の沙雪は、もっと怖いはずだ。

だって、自分のお兄ちゃんを、彼氏だと紹介しなければいけないのだから。

僕達は、またそっと手を握り合った。

ドアを開けると、こちらに背を向けるように置いてあるソファーに、父親が新聞を読みながら座っていた。

「…おとう、さん。彼氏、連れてきたよ…悠ちゃん。」
「…え?悠…」

沙雪が言った、『悠ちゃん』という言葉に反応して、父親が振り返った。

無理もない。だって僕は小さいころ、悠ちゃんと呼ばれていたのだから。
これで、抱いていた、小さな願いは薄くなった。

「…久しぶり。…父さん」

こっちを振り返ったのは、紛れもない、僕の父親だった。

「悠…?なんでお前が…」
「わたしの彼氏なの。」
「…え?」

沙雪が言うと、父親はかなり驚いた顔をしていた。
そして、

「…まぁ、座れ。」

静かに、そう言った。