そして、沙雪はゆっくり口を開いた。
僕には父親が居ない。
僕の父親は、僕が5歳の時に離婚して、浮気相手の女の人と結婚した。
僕の父親は那智みたいな人だったらしい。
悪気はないのに、いろんな女の人と遊んでしまう人。
母親から、ずっと、「お父さんはいい人だった」
そう聞かされていた。
実際、優しくてカッコいいお父さんだと子供ながらに思っていた。
だから僕は別に父親を恨んだりする事もなかったし、
僕の誕生日には必ず来てくれる父親が好きだった。
母親は僕に小さい女の子の写真を見せた。
「…悠の妹だって。悠と同い年らしいけどね。」
そう言って少し笑った母親をみて、僕は、「強い人だ。」と思った。
父親は、母親を大切にしてたんだな…。
そんな父親を、僕は少し尊敬した。
だけど今この瞬間、
僕は父親を嫌いになった……


