それは叶わなかった。

私が立ち去ろうとした瞬間、転んでいた子が突然むくりと顔を上げたのだ。
目があってしまった。

「・・・」

その子は無言で私の姿を見つめた。
少しの沈黙が二人の間におとずれる。
私は目線を逸らすわけにもいかず、少し目線を泳がせながら、その子の反応をまった。

すると突然、その子の目から大粒の涙が零れた。

「え!?えっと・・・」

突然の出来事に頭がついていけなくなりそうになる。一瞬軽いパニックになりかけながらも思った。

(現実にも、こんな漫画みたいなことっておきるもんなんだな・・・)

人間、極限まで混乱すると、逆に冷静になるものである。
取りあえず、もう逃げることが出来なくなってしまったので、声をかけることにした。
いや、むしろここで立ち去ったらただの最低な奴になってしまう。

「だ、大丈夫です・・・か?」

「・・・・・・」

声をかけてみたものの、泣いたままで、反応がなかった。

「えっと・・・」

なんて声をかければいいのか考えていると、微かに嗚咽の混じった声が聞こえてきた。

「手・・・」

「えっ!?」

「よかったら・・・手を貸して下さいませんか・・・?」