「……用件は、なんですか」


恵理夜は、射抜くような大きな瞳で相手を見つめた。

部下は、呆然と拳を引いていた。

その拳は、恵理夜の顔を捉えてしまったのだ。

わずかに頬が腫れ、鼻血が滴る。

しかし、恵理夜は全く動じずに相手を見つめていた。


「お嬢……申し訳ねぇ。大丈夫ですか」

「用件は何、と聞いたんです」


毅然とした態度に、部下たちのほうがたじろいていた。


「そこの木偶の坊には話したんです。シラヤナギ先生から、遺品を預かって来いと」

「貴方に、私の春樹を木偶の坊呼ばわりされる言われはないわ」


鼻血を拭いながら恵理夜は言い放った。

鼻血は人を間抜けに見せるものだが、恵理夜には紅を引くより彼女を魅力的にした。

部下は、すっかり小さくなっていた。