「違うの」

「いえ、2種類あるんですよ。どちらが本当かわからないのです」

「2種類って」

「お嬢様の“The road is so long”と“The world so wrong”の2種類です」

「どう違うの」

「平和への道は遠いけれど……これがお嬢様の習った方ですね」

「もう一つは」

「“The world so wrong”、世界は、相変わらず間違っているけれど……こちらの方が多く普及していると思います」

「ずいぶん、意味が違うのね」

「どういう違いを感じますか?」

「前提の問題を感じるわ。私が知っているほうは、平和の実現が前提よ」

「“The road is so long”……道は遠いけれど、という意味に、ですか」

「そう。まだ、世界は平和じゃないけれど、いつかたどり着こうとする希望を感じる」

「“The world so wrong”……世界は間違っている。こちらはいかがです?」

「とても間違っている、とも訳せるし、相変わらず間違っているとも訳せるけど……いずれにせよ、平和な世界なんて無いって言うのが前提な感じがするのよ。それでも生きていこうっていうニュアンスを感じるわ」


祈りに希望を持ってその歌を歌うか、諦めた上でそれでも祈りながら歌うか。


「どちらが本当なのでしょうね」

「お母さんの楽譜になら載っているかもしれない」


恵理夜は、重厚な書斎机に居住まいを正した。


「もう少し、がんばるわ」

「お手伝いいたします」