その時、部屋の扉が開いた。


「失礼します。カシラ、時間です」


黒いスーツの男だった。


「おう」


祖父は懐中時計をしまい、恵理夜に笑顔を向けた。


「恵理夜、またさっきの曲、聞かせてくれ」

「あら、でも譜面がなくて……」

「恵美子の部屋にあるんじゃねぇか」

「お母さんの……」


先ほどの、シラヤナギの話を思い出す。


「それじゃあな。楽しみにしてるよ」


祖父は、部屋を出て行った。




――恵理夜は、思い立ったように立ち上がった。

そして、部屋にある内線をとる。


「もしもし、叔父様。恵理夜です。あの……」


シラヤナギに、決心がついた旨を伝えた。