「その曲、わしもよく聞いたの。この時期に」

「あら、本当に」


恵理夜と同じ記憶を共有している、そのことが嬉しかった。


「確か、恵美子が好きだったから、理一もその歌で恵美子を落としたって聞いたな」


義理の息子、恵理夜の父親の歌声を思い出す。


「あの歌声じゃ、お母さんも落ちちゃうかもしれないわね」


と恵理夜は笑った。

思い出の中の歌声は、いつだって美しい。


「それにしても今朝、朝練でふらふらになったらしいな、恵理夜」


打ちのめされ、なんとか部屋にたどり着き、そこで恵理夜は倒れた。


「そんなこと聞いてたなんて……」

「おめぇも筋がいいらしいが、気をつけろよ」

「……わかってます。余計な力は、いらないもの」

「頭のいい子だ」


祖父は、嘘偽りなく恵理夜を褒める。

祖父にも、恵理夜の勘は及ばないことは多いが、褒めるときは嘘じゃないのを確信する。


「あんまり強くなっちまうと、ロクなことはねぇ……」


理一は、極道ではなかったが強かったと聞いている。


「なまじ、理一は強かったからな。あそこまで強くなければ死にはしなかっただろうよ。恵美子もそうだ」


二人は、抗争に巻き込まれて死んだ。

恵理夜を誘拐しようとした集団から、恵理夜を守って死んだそうだ。