「で、何を企んでいるんですか」


実は、恵理夜は少し構えていた。

前回、シラヤナギのおかげで冷やかな内部抗争に巻き込まれたからだ。


「いやいや、前みたいに迷惑をかけるものではないよ。君たちに危険もない」


命を繋ぐ常備薬を盗まれ、おまけに銃による貫通創を受けて、恵理夜は危うく留年するところだった。


「それならいいんですけど」


シラヤナギは、申し訳なさそうに苦笑するしかなかった。


「実は、姉さんたちの部屋を整理しようと思ってね」

「お母さんの……」


組長の子供は、恵理夜の母とシラヤナギの二人だった。

そして、恵理夜の母は、すでに他界している。

恵理夜の父と共に。


「二人の部屋は、大旦那が残しておきたいって言ってそのままなんだけど、そろそろ手入れくらいしてもいいかなと思ってね」


恵理夜は、屋敷の離れにあるその部屋を少し避けていた。


「ただ、恵理夜は、あの部屋に近寄りたくないようだから」

「……思い出に、押しつぶされちゃう気がして」


シラヤナギは何も言わなかった。

彼女の両親は、彼女が5歳のときに亡くなっていた。


「よかったら、君が整理してくれたら、と思ったんだが」

「考えておきます」


シラヤナギは、恵理夜の髪を撫でて立ち去っていった。