『おい黒須(クロス)、まだ落ち込んでんのか?いい加減諦めろよ。

今年はどう頑張ったってもう無理だって。』


黒須と呼ばれたその男は赤い服を着込み、頭には白いボンボンが付いた同じく赤い帽子を被っている。

ここまでなら何の変哲もないサンタクロースのコスチュームなのだが、従来ならば白髪が生えているはずの頭には生存している髪の毛は少なく、白く長い髭(ヒゲ)があるはずの口元には黒いちょび髭しかない。

また本物ならばぽっちゃり体型のおじいちゃんのはずなのだが、黒須は残念ながらメタボ体型の中年のようだ。


そんな偽サンタの臭いがプンプンする黒須がでもさぁ…と小さく洩らす。


「今年の12月25日はさぁ幸子さんと結婚10周年を祝うはずだったんだ…

だから今年はプレゼント買って、ちゃんと休み入れてたのによ…」


サンタがクリスマスイブに自身の仕事を愚痴るとは如何かと思うが余程悔しかったのだろう、そこまで呟くと涙を赤い帽子で拭った。

満月に照らされた黒須の頭部は満月に負けないくらい光り輝いている。