あたし何でこんなところにいるんだろう?

行くのをあれだけ怖がってたはずなのに。

なのにどうしてあたし今東京にいるんだろう?


「今日はこの後婚約者になる女と食事らしい」


東京駅に着いてすぐタクシーに乗った。

中村さんに繋がれた手を離したくても離せない。

でもなんだか安心してしまう。


あたしってズルイな、相変わらず。



お母さんとお父さんには学校に行った事にしてある。


そのまま理恵ちゃんの所に 寄るって伝えた。

勿論、理恵ちゃんにもアリバイ作りに協力してもらって。



「中村さん、あたしやっぱり怖い」

行き先を告げた中村さんにしがみ付くようにぽつりと呟く。


恐い

コワイ


「別に今のままでもいいけど、そのままだと一生前に進めないぞ」

そんな事は分かってるよ。

だけど

震えの収まらない手を、中村さんはぎゅっと握ってくれて


「大丈夫。おまえがもしだめだったら、そのときは俺が嫁にもらってやるよ」

柄にもない冗談を言ってくれた。

「ふふ」

「やっと笑ったな」

中村さんは笑顔で言うとあたしの頭を優しくなでた。