「いいんですか?」

孝が聞く。


「ええ。三年の皆は勉強、勉強で……

ちっとも付き合ってくれなくなったの。

それに私も息抜きしたいし。

じゃあ弾くわよ」


先輩の指がしなやかに、けれど力強く動き出して、音を奏で始めた。




気がつくと、演奏は終わっていた。


孝の拍手の音で我にかえった私は慌てて拍手をする。


「素晴らしい演奏を聴かせていただいてありがとうございました」

お礼を言う


「ううん。私も聴いてもらえて嬉しかったわ。

じゃあ校内見学ツアー…だっけ?楽しんでね!!」


「はい!!じゃあ失礼しました。」

音楽室から出て、扉を静かに閉めてから歩き出した。


音楽室が見えなくなった時、不意に孝が呟いた。


「俺、一目惚れしたかも…」


「えっ!?」

さっきよりも胸が痛んだ―――。