そして、ルートスの耳元に唇をあてた。ジェイスはまるで愛を囁くように、ゆっくり言った。
「その婚約者を、私に譲れ」
ルートスはいよいよ叫びだした。
「滅相もない!ジェイス様のような高貴なお方が、あんな貧乏農民の末娘なんかと結婚なんて…!」
「じゃあ、地方議員の君にも合わないだろう。私に渡してくれれば、厄介な結婚とおさらばできる」
ジェイスの切り返しに、ルートスは言葉に詰まった。
その表情を見て、ジェイスはなんともいえない優越感に浸った。正直、ジェイスは女のことはあまり興味がなかった。ただこの生意気な議員の息子に、一恥かかせたかったのだ。
「…できません」
