『なら、私も言いたいけとがあるわ』
「何?」
『私は友達もいなければ、あんたに優しくした覚えもない』
藤臣がお母さんについた嘘。
藤臣の口から自然に、いかにも本当のように出たそれ。
『あんな嘘、よくすぐ出たわね』
「ああ、あれは嘘じゃない」
『は?だって、』
「友達ならいる。僕」
……何だって?
『冗談よしてよ。誰があんたと…』
「友達だよ。一緒に食事をしたら、もう友達だ」
『あのねぇ、』
「あと、優しいのは本当にそう思ったから。
…いくら山本さんでも、僕の意思を変える権利はないよね?」
こいつ…
へらへらしてると思ったら、急に論理的になる。
抜け目がないというか何と言うか…
私はこういうのに慣れていない。言い負かしたことはあれど、負かされたことなんてないのだ。
…負けたなんてこれっぽっちも思ってないけれど。
『なら謝る必要はないわね』
「え?」
『嘘つかせたことを謝るつもりだったの。ま、頼んじゃいない大きなお世話だったけどね』
「あはは」
『でも藤臣にしてみれば本心だったのよね?おかげで無駄な謝礼をせずにすんだわ』
「…それは残念」
『“ごめんなさい”なんてそう簡単に言うと思う?』
思わない。
藤臣はそう言って笑った。
「じゃあまた明日、学校で」
『ええ』
軽く手を振って去っていく藤臣。
その背中を見えなくなるまで見送ってから、空を見上げる。
『…何やってんのよ、私』
少し前まで考えられなかった今日。
……楽しかったわけじゃない。ただ、慣れないことをして疲れた。
『…それだけよ』
夜空に浮かぶ満月が、いつもよりほんの少しだけ明るい気がした。
