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「今日はありがとう。ご飯、美味しかった」
『お世辞はいいわよ。どうせ普段はもっと美味しいもの食べてるんでしょ』
「そんなことないよ」
どうだか。
外に出るともうあたりは真っ暗だった。
藤臣を見送るために適当に履いた下駄がカランと音をたてる。
「今度はうちにも招待する」
『遠慮するわ。私そういうマナーとかよく分からないし』
「普通でいいのに」
いや絶対ナイフとフォークは使うに決まってる。
水でさえワイングラスで出てきそうだ。
「でも本当に美味しかったよ。大勢で食べたからかな」
『大勢って…たった5人よ』
「僕は1人で食べることが多いからね。“家族団らん”ってああいうことを言うんだなって思った」
『…そう』
お金持ちの家はお金持ちなりに色々大変なのかもな。
ま、同情なんてしてやる気は更々ないけど。
「あと、もう1つお礼言わないといけないことがあるんだ」
『…?』
「夕方、沢田さんのことを話した時」
『ああ、いじめの…それが?』
「何もしないのも強さだってあれ、すごく気が楽になった」
『…………』
「もちろん罪悪感はまだあるけど…山本さんに話して良かったよ」
『…私は思ったことを言っただけよ』
「それでも、嬉しかったんだ」
ありがとう、と。
藤臣が私に向けた笑みは嫌味なんて全く感じなかった。
