─────…
「ご飯出来たわよ~!実咲ちゃん、潤ちゃん呼んできてくれる?」
「はーい!じゅんちゃん ごはんー!」
買い物から帰ってきてしばらくして晩御飯が出来た。
煮物のいい匂いが台所から漏れる。
「藤臣くんと透子ちゃんのおかげで無事にお味噌汁が出来たわ」
「いえ、そんな」
『大袈裟なんだから。
お茶淹れてくる』
藤臣とお母さんを残して台所に向かう。
冷蔵庫に入っていたお茶のボトルを取り出したところで、居間から二人の会話が聞こえてきた。
「藤臣君って、確か透子ちゃんと同じクラスだったかしら」
「はい。一緒に委員もやってます」
「透子ちゃん、学校ではどんな感じ?」
「え?」
え?
普段、学校の話はほとんどしない。
特に話すことがないのもあるが、聞かれもしないからだ。
お母さんの口から“学校”という単語が出てきたのすら小学校以来じゃないかと思うくらいだ。
「友達とかちゃんといるのかって…少し気になって」
直接私に聞けばいいのに。っていうか、丸聞こえなんだけど。
台所がガラス戸挟んで隣ってこと忘れてない?
「大丈夫ですよ。山本さんは友達もいるし、才色兼備だって皆 憧れてるくらいです」
「まあ…!」
なんてうまく出来た嘘だ。
才色兼備なのは本当だが、私に憧れてる人なんて聞いたことないし、友達もいない。
学校で話すことなんて事務的なことしかないのに。
「良かった。ほら、あの子あんな性格でしょう?誤解されやすいっていうか」
「あはは、」
「意地っ張りでツンケンしてるけど…本当は誰よりも優しい子なの」
誰が意地っ張りよ!別に意地なんて張ってないし!
つか藤臣は藤臣で笑ってんじゃないわよ!
「知ってます。山本さんが優しいのは、少し話せばわかる」
誰が、いつ、どこで藤臣に優しくしたっていうの。
そんな記憶これっぽっちもないわ。皆無よ皆無。
「ふふ、ありがとう藤臣君。これからも透子ちゃんをよろしくね」
「こちらこそ」
…でも、今だけは藤臣の嘘に感謝すべきかもしれない。
