女王様と王子様

「悪い子じゃないんだけどね」


彼女を責める私をなだめるような口調だ。


『知ったような口聞くのね』

「中学が同じだったから」


道理で。
なんとなくそんな感じはしていた。


『彼女って昔からああなの?』

「ああって?」

『気が弱そうでパシりに最適、みたいな』

「あー…そんなことはないよ。人並みに友達がいて、普通の時もあった」

『普通の時“も”?』

「…中学3年の時だったかな。沢田さんが原因で体育祭で負けたことがあって」


その日から、クラスの人間は彼女を無視するようになった。
しばらくして無視はクラスだけに留まらず、学年全体に広まったそうだ。
結局、その問題を解決することなく今に至る。

……体育祭に負けたくらいで。


『…くっだらない』

「うん、くだらない。だけど中学生の頃はそう思わない人もいた。
周りの人間に対して臆病になっちゃったんだろうね。だから今だってあんな子達とつるんでる」


水族館でのことが思い浮かぶ。
缶ジュースを大量に持つ姿、ハの字に垂れる眉、彼女をからかう言葉。
思い出すだけで不愉快だ。


『よく黙ってられるわ。私なら我慢出来ない』

「山本さんは強いな」

『人として当たり前よ』

「当たり前、か。当たり前ってなんだろう」

『…?』

「僕は彼女を助けなかったんだ。無視こそしなかったけど、話しかけもしなかった」


そうか。藤臣は沢田の状況を知りながら、助け船を出してやらなかった。
つまり、無視してた奴と自分も同類と言いたいのか。


『私は何もしなくて正解だと思うわ』

「どうして?」

『あんただけが彼女を特別扱いしたら、ますます苛められただろうから』


性格はそう簡単に変わるものじゃない。
今と同様、藤臣は中学時代もへらへら周りに愛想を振り撒いてたんだろう。
人気者に特別扱いされる奴は妬まれる。これはもう自然の摂理。


『万引きを止めたことがあるんでしょ?それだけで十分じゃない』

「…………」


藤臣が目を丸くして私を見る。

藤臣を庇うつもりは毛頭ない。
しかし、放っておけないのは何故だ。


『何もしないのも強さよ』