女王様と王子様

「これでいいのかな」


スーパーに着いて、様々な味噌が並んでいるコーナーを見た。
藤臣は一番手前にあった味噌を持って言う。


『その隣のやつ』

「これ?」

『そっちの方が20円安い』

「にじゅうえん…」

『文句ある?』

「いいえ、女王様」

『ふざけないで』


ばし、と背中を叩く。

何が女王様よ。あんただって学校で“王子様”なんて言われてるくせに。
私は王子様、なんて絶対呼んでやらないけど。




─────…




「…あ」

「…!」


スーパーから出たところで、向かいの薬局から見たことのある人物が出てきた。
藤臣も声を出す。

確かこの子は…水族館の、


「沢田さん」


ああ、そうそう。沢田だ沢田。
ギャル軍団がそう呼んでたっけ。


「ふ、藤臣くん…と、山本さん…」


彼女は怯えるように肩を震わせていた。


「偶然だね。何してたの?」


何してたのって、薬局から出てきたんだから薬局に何か用事があったんでしょ。

そう言おうとしたが、沢田の手には何も持たれてなかった。
藤臣を見ると、もう何もかも理解したような目付き。


「何、って…買い物を…」

「何も買ってないようだけど」

「売り切れ、だったんです」

「へぇ」


す、と藤臣は目を細めた。

何。何なの。何が起きようとしてるの 今。