『い、妹が…』
妹…
そうか。確か、山本さんには実咲という妹がいた。
彼女の家に行った時、母親の影からこちらを覗いていたのを思い出す。
『妹が好きそうだなって、思っただけ、よ』
「…それであんなに見てたの?」
『……悪い?』
さっきまでのしどろもどろな態度は一体どこへ。
そう思うと堪えきれなくて笑ってしまった。
なるほど、妹のお土産に買うか迷っていたのか。それは想定外だった。
まさか学校で“女王様”なんて言われてる彼女が、妹のお土産で迷うなんて…誰が想像出来るだろう。
…やっぱり、山本さんは面白い人だ。
「じゃあこれは山本さんからのお土産ってことで渡してよ」
『出来ないわ。あんたこそ、大好きなお姉さんにあげたら?』
家が八百屋で、
乙女ゲームが好きで、
変なところで意地っ張り。
「姉は仕事で海外にいるから無理なんだ。…だから、ね?」
彼女のことをもっと知りたい。
『…なら、お金だけでも返す。高かったでしょ』
「いらない。僕が勝手に買ったんだから。それにお礼のつもりなのに山本さんが払ったら意味ないじゃない」
少しずつ。
少しずつ、僕しか知らない彼女が増えていく。
「山本さんって家族思いだね」
『…ふ、普通よ!』
ほら、まただ。
『…帰る!』
「うん、また明日」
微かに赤い彼女の顔は、夕日のせいなのか。
はたまた別の何かなのか。
僕は確かめる術を知らない。
