マンションに戻った戒は、洗面台の鏡に自分の顔を映しシェーバーを手にする。 「面倒な……」と、つぶやき電源を入れ無精髭(ぶしょうひげ)に当てた。 硬い毛が剃られていく音が狭い部屋に響く。 そうして、軽く水洗いしたあと顔を洗ってキッチンに向かった。 ブランデーのボトルとグラス、氷を手にしてリビングのソファに腰を落とす。 氷と酒をグラスに注いで立ち上がりベランダに出た。 相変わらず見下ろす塀の中は薄暗く、陰気だった──