腹立たしげに建物に入り、いつもの部屋のドアノブに手をかけた。 「戒!」 そして、いつもの青年の笑顔が彼を迎える。 紙コップにコーヒーを注ぎ、タバコを1本、取り出す。 翼は、そのタバコをいつも不思議そうに眺めていた。 その臭いと煙の色で、無害なタバコだと解る。 戒は椅子に腰を落とし、タバコに火を付けて目を細めた。 男は元々、喫煙者ではない。 このタバコを吸い始めたのも、死んだ恋人のひと言からだった──