オレは気付いたら、スリッパのまま女の子の所まで走っていた。



「……どうかしたの?」

まるで壊れ物を扱うかのように優しく尋ねた。





『桜が、散っちゃう』

女の子は、それだけ呟いて散っている桜の花びらに手をかざした。



意味がわからなかった。


「それが、悲しいの?」

思わず聞いていた。



『悲しいのかな?わかんない。

でも未来たちは入学式で、お祝いで、すごく幸せなのに。

桜は散っちゃうんだなって。散っちゃったらもうみんな桜に注目しないのに。

それってなんだか寂しいと思うの』



そう言って、オレの方を振り返った彼女の顔を見て、びっくりした。



かわいくて、小動物みたいなのは、その姿だけじゃないらしい。

涙で濡れた瞳はウサギのようで、とてもかわいらしかった。