加藤はずり落ちた縁無しの四角い眼鏡を右手の中指で上へ押し返した。

「はは!友人か。そうだなお前と俺は友人関係なのか。なるほど、友達を作るのも悪くない。」

「喧嘩するほど仲がいいってな、そう日本では言われているんだ。」

「お前にとっては殺し合いは喧嘩なのか。」

「殺し合いも戦争も、あるひとつの意思とあるひとつの意思による喧嘩だろう。…さてと」

加藤が立ち上がった。

「そろそろ行く。会計はお前持ちだな神野君。」

「ああ。毎回ツケだ。」

「それはそれは。悪い奴だ。
それじゃ、またいつか。」

加藤は一万円札をテーブルに置き出口へ向かった。
店内は相変わらずの賑わいで隣の席の話し声も聞こえない。

「オーロラだ!」
神野が加藤の背中に言った。

「全て終わったらオーロラを見に行く。」

加藤は後ろを振り向かず、右手を軽く挙げて外の雑踏へ消えた。