あの日、雪の降っていた日。


 あたしは、泣きながら走っていた。

 たった1人の友達と喧嘩して。


 「何について喧嘩したんだっけ」って友達は苦笑いしたけど、あたしは笑えなかった。


 だって、すごく悲しいことを言われたんだもん。

 


 あの日、泣いていたから周りなんて見ていなかった。まあ見たって、田舎だから畑や田んぼしかないんだけど。


 でも、どこをどう走ったか分からない。ただ走り続けた。


 久しぶりの悲しみの涙は、とっても、とっても熱くて。顔に当たる雪も冷たくなかった。


 そして。



          どんっ



 誰も通らないようなこの場所で、何かにぶつかった。反動で、尻餅をつく。


「ふぇ……」 


 びっくりして、もっともっと泣きたくなった。でもすぐに、ぶつかったのは自分より小さな男の子だと気付く。


 そして、その子の頬にも涙があった。


「ごっごめんね」


 自分が泣かしたんだって思って、慌てて謝った。

 なのに、そいつはすぐに立ち上がって無言のままあたしの横をすり抜けた。

(な、なにコイツ!!)


 ふと、そいつは立ち止まった。でもむっとしたあたしは、それに気付かずそいつのフードを引っ張った。


「あんたもぶつかったんだから、謝りなさい!」


 ふいを突かれたそいつは「うわっ!?」と再び尻餅。


 「ざまあみろ」と思わず笑った時、やっと気付いた。


 ここが、あたしの走ってきた道じゃないってことに。


 目の前に、大きな木。雪でよくわからないけど、それ以外何もない白の世界。


「ここ……どこ?」


 呟いた、その瞬間。突然後ろに引っ張られた。


「な、なにするの!」

「それはこっちのセリフだ!」


 引っ張られたのは、マフラー。引っ張ったのは、ぶつかった男の子。


 その時、初めてあたしたちは目が合った。




 そして、気付いたんだ。

 あたしたち、知り合いだって。