「陽菜ちゃん、俺と…付き合って欲しい…。」
背中に回された翔琉くんの温かい手。
ギュッと抱きしめられて、優しい香りが鼻を掠めた。
「わ、私……」
何か返答しなくちゃ…。
そう思って振り絞るように声を出したけれど、続きの言葉が浮かばない。
また…すぐに途切れてしまった。
「陽菜ちゃん…。」
降ってきた声に反応してピクッと肩を上げると、翔琉くんは私の耳元に顔を近付けた。
「俺の気持ち、突然伝えたりしてごめん…。驚かせちゃったよね…。落ち着いたら…返事聞かせて?俺、待ってるから。」
翔琉くんの唇が耳たぶに触れてしまいそうなぐらいの距離。
温かい吐息まじりの声が鼓膜を震わせた。
「それじゃあ、俺…先に行くね…。」
その声と共に、ゆっくりと私から離れた翔琉くんは柔らかに微笑んだ。
「今日は、話…聞いてくれてありがとう…。またね…。」
小さく手を振った翔琉くんは、屋上のドアに向かって歩いていく。
その姿を、私は…茫然と見つめていた。


