Virus ―Another Story―

「さて…」


オレグが居なくなった部屋で静かに呟く。


咄嗟に逃げ込んでしまったけど……。


ここは、なんの部屋なのかしら?

キョロキョロと辺りを見渡すと、ロッカーが並ぶ部屋だった。


近くのロッカーを開けてみると、私服と看守用の替えの制服、鞄が入っていた。


……ここは、看守用のロッカールームってところかしら?


だったら、何か武器になるようなもの…あるかも。


今私にある武器は、護身用に持ち歩いていたハンドガンと弾1ダース…それにナイフだけ。


これでは、心細い。


こんなことになるなら、ショットガンやハンティングするときに使う猟銃も持ってくれば良かったわ。


家になら沢山あるのにと思いつつ、手当たり次第開くロッカーを調べていく。


中々、それといった武器は、見つからなかった。


……もしかしたら、オレグが使えるものを持っていっちゃったかも。


そしたら、せめて館内の地図があると助かるんだけど……。


オレグは受刑者だったみたいたから、この施設の大体の地図が頭に入ってるでしょうけど……。


私はそうはいかないわ。


だったら、外に出ればいいのかもしれないけど……。


少なくとも、外でうろうろするよりはきっと安全だと思うし、通信室もあるだろうから、外部とも連絡がとれるかもしれないし。


そしたら……あの人とも連絡できるかもしれない。


その為に来たのだ。


怖いけど……外よりはましってものよ。


だからこそ、地図と武器……見付けられないと出れないわ。


そうはいっても、全ロッカーは見てしまった。


これでは、全然前進できない。


「あー、もう!武器の1つくらい置いていってよね!じゃなくても、地図!地図くらいあったっていいじゃないの!」


苛々を我慢できず、音を出したら危ないと言うことも忘れ床を蹴り飛ばした……はずだったが、何かが足に引っ掛かった。


「きゃあ!?」


その拍子に盛大に転んでしまった。



「いたたた……。顔を思いっきりぶつけた……。これが、漫画なら鼻にバッテンの白の絆創膏が貼ってあるところよ」


一体何に引っ掛かったの?


キッと何かが引っ掛かった右足を恨めしそうに見た。


「……あ。これって…」


それを見た瞬間、怒りは消えた。


何故なら、それは床下に収納するための小さな扉の取手だったのだから。


もしかしたら…何かあるかも。


私は一旦開けようと取手を持った手をとめた。


…まさか、ここにあいつら……まぁ、ゾンビでいいと思うんだけど、ゾンビを閉じ込めてたりしないわよね?



もしここの職員がすぐに死なないあの怪物たちを閉じ込めてたら…開けた瞬間、私は奴等に捕まって暗い地下に引きずり込まれて身を貪り喰われる。


想像しただけで何も見えない闇のなかで喰われていくのは恐ろしかった。


…それだけは……いや、それ以外が良いと言うわけではないけど、何もわからないまま気が狂うような地下で喰われるのだけは絶対に嫌よ。


私は、そう思ってその扉に耳を済ませた。



…………


………


……






何も聞こえない、よね?


防音対策がされていたら話は別だけど…こんな倉庫に防音対策なんて普通しないわよね。



不安だが、他に武器も地図も調達できない今…とりあえずは音が聞こえないこの場所をスルーするわけにはいかない。


私は、深呼吸をして一応すぐに逃げられるように中腰になって再び取手に手をかけた。


1 2の3で開けるわよ、イル。


自分に言い聞かせて取手を握る手に力を込める。



1 2の3…!


ガチャンと勢いよく扉が開かれるのと同時に一歩後ろに下がる。


「……」


呻き声とか歩く音はしないわね…。



腰につけていたハンドガンを念のために手をとって中を覗き込むために近付く。


そして、ゆっくりと覗くとそこは荷物だけが無造作に置かれていた。


「ふぅ……。本当に今の状況は心臓に悪いわ…」


安堵の息を吐き、よく中を見てみる。


埃が被った物の中にショットガンらしきものがあった。


私は、迷わずそれに手を伸ばす。


「よいしょっと…」


見てみると少し前の型ではあるが立派なショットガンだった。


「これで、もし奴等に囲まれてもハンドガンよりはましね。でも…」


銃口の中にも埃が溜まっている。


……これは、使えるのかしら?


使えたとしても暴発しない?


そう思うほど埃がすごかった。



もし、戦うことになったら…奴等から少し離れて試し撃ちするしかないわね。


ちらりと中を見ると弾の何ダースかある。


これも頂いていきましょう。


弾をとって他に何かないのか見てみる。


しかし、他には備品があるだけで目ぼしいものはなかった。


「うーん…地図があったら良かったのにな……」


そう思いながら、扉を閉め立ち上がった時だった。



「あっ」


私は、壁に貼ってあった館内地図を見つけたら。


こんなところにあるなんて…あり?


灯台もと暗しね。


我ながらなぜ気づかなかったのだろうと思いつつ、その地図を剥がした。


少し荷物が多くなってしまったわね。


これではまともに武器も持てない。


近くに置いてあったショットガン用のガンケースと、大きめなウエストポーチを拝借し、荷物をまとめた。


「これで、よし……と」


もし持ち主が現れたらきちんとお返ししなきゃね。


私は、ロッカー室を後にする前にそう心得で思いつつ扉を開けて部屋を出た。