Virus ―Another Story―

「……」


先程までこちらを全く見ずに扉に向かっていたオレグの足が止まった。


そして、クルリとこちらを向いた。


「?」


えっ、何かしら……。


私はそんなオレグの心の真意を捉えることが出来ずに言葉がでなかった。


しかし、少し驚いているようにも見える。


……私何かおかしなこと言ったかしら?


「……」


まだ何も言わずに私を見るオレグの言葉を待っていようと思ったが、この状況で……しかも、気まずさが立ち込めて思わず聞いてしまった。

「どうしたの?私……何か変なこと言ったかしら?」


私のその言葉にオレグはハッとしたように微かに顔をあげた。

「いや……。俺より自分の心配したらどうだ?まぁ……アンタすぐにくたばりそうだけど」


そして、先程と同じく憎まれ口を叩いた。


「失礼ねー!私はこれでも自分の身くらいは守れますー」

「あっ、そう。……じゃあ、本当に俺は行く」


その興味のないような口調に「貴方ねぇ!」と言いかけたが次のオレグの言葉にその言葉が出てこなかった。


「……だから、アンタこそ気を付けろよ。俺には関係ないが」


ちらりと私の顔を見てから扉の先に行ったオレグの後ろ姿を見送る私。


「きゅ……急にそんな可愛いこと言うなんて」


まぁ、年頃の男の子。

しかも、色々な過去を背負っているような。


きっと可愛い子なのよ。


女性である私をこんなところに置いていくけど!

それでも、きっと可愛い子なのよ。

半ば自分に言い聞かせるように私は一人になった部屋で考えていた。