蜃気楼

「入っても、いい?」



女性の声だった。



多々良は誰だろうと訝しがりながら、取り敢えずはいと返事をした。



ガチャリとドアは勢いよく開く。



多々良は驚いて飛び退いた。



「王妃様!?」



多々良の悲鳴に呉壽が飛び出そうとした瞬間、多々良は大きく叫んだ。



勿論、呉壽を止めるためだ。



背中で気配が静まるのを確認して、多々良は口を開いた。



「どうか、しましたか。」



目の前に立っているのは、自分の実の母親。



しかし、特別な感情は沸いてこなかった。



反対に、目の前の王妃は目に涙を浮かべている。



「多々良、大きくなって…。」



頬に手が伸びる。



多々良は無意識にそれを避けた。



失礼だなどと考える余裕もない。



一瞬傷ついた顔をしたが、それでも彼女は多々良に歩み寄ってくる。



「あんなに小さかった多々良が、こんなになるだなんて。」


「赤ん坊は成長します。」



当たり前のコタエを返した多々良に怒るようでもなく、王妃はさらに近づいてくる。