蜃気楼

「呉壽!」



今度はもう少し大きめの声で呼んでみる。



「多々良か。」



呉壽が植木の間から、ひょっこりと禿げ頭を出す。



もう少しがたいの小さな人間がすれば可愛いものだが、呉壽がやるとなんだか海坊主のようで笑える。



なんとか表情筋をコントロールした多々良は、大きく手を振って見せた。



「上って来れる?」



ここはどうやら3階らしい。



でっぱりはあるものの、落ちればまず無傷では済まないだろう。



呉壽は返事を寄越さず、あっという間に部屋の中までよじ登って、言った。



「舐めんな、これでも山賊だぞ。」


「はぁ。
やっぱりすごいね~。」


「お前も一応、山賊だろうが。」


「僕はホラ、医療班ってことで。
肉体派じゃないんでね。」


「ふん、言ってろ。」



呉壽は多々良の後ろを見て、あっと声を上げた。



「なんじゃ、こりゃぁ~…。」



ほうっと部屋を見回している。



「なんだ、これは!?
足が!」



悲鳴に何事かと見ると、ふかふかの絨毯に沈み込んだ自分の足を見ている。



あぁ、驚くところは同じなのかと可笑しくなる。