蜃気楼

「お前の目的は、それだけか?」


「んー、主にはこれだけだけど。
…でも、捕虜になった仲間に会いたい。」


「山賊か?」


「まぁ、そこは義勇軍と言ってほしいね。」


「他には。」



多々良はじっと考え込んだ。



僕がここへきた目的は、戦争を終わらせることと、仲間を取り戻すこと。



それ以外には思いつかない。



素直に首を縦に振った。



「本当に、ここでの暮らしは、王位は要求しないのか。」



王はどうしてもそれが気になっていたらしい。



多々良はきっぱりと言い捨てた。



「そんなの、いらない。
財産なんて興味ないし、王位なんてもっとどうでもいい。」


「妻が納得せんぞ。」


「王妃様には可哀想だけど、僕は本当にいらないんだ。
自分が王妃の座と交換に捨てた子どもに、自分の思い通りになれだなんて言う権利ないでしょう。
諦めろって、言って。」



そう言って、多々良はさっさと部屋を出た。



王はもう声をかけてこない。



パタンと扉を閉めると、多々良はその場に座り込んだ。



「緊張した~…。」



なんなんだよあの人。



威圧感、ありすぎ。



いつもは飄々として山賊ですら呆気にとられているような多々良だったが、さすがに仲間の命がかかっていると思うと冷や汗が止まらない。