蜃気楼

怪訝な顔をした多々良に、王も首を傾げた。



「先に攻めてくるのは、そっちだろう?」


「…国民の、山賊の暴動を沈静化するために仕方なく軍を向かわせているはずだが?」


「…重い税を払えない農民を連れていくのは?」


「……そんな話、聞いたことがないが?」



重い沈黙がおりた。



しーんと広間が静まっている。



「どういうことだ?」


「こっちが聞きたいね。」



話が食い違っている。



様子を見ると、王が嘘をついているわけではなさそうだ。



「こちらとしては、反乱軍が国を攻めてくるとの報告が次々と上がってきているために対処しているのだが。」


「こっちとしては、政府が無茶な税や制度で国民を馬車馬のようにこき使っているのを止めようとしているんだけれど、」



再び、重い沈黙。



王の仏頂面からは何も読み取れない。



多々良は視線をそらしたいのをぐっとこらえて、正面を睨んでいた。



「わかった、確かめよう。」


「お願いします。」



多々良は90度に礼をした。



お願いします、お願いだから、戦争を終わらせて。



「では、失礼します。」


「待て。」



あ、やっぱり?



多々良は悪戯がバレた子どものように、ゆっくりと後ろを振り返る。