蜃気楼

多々良は無表情に拳を握った。



王は気難しそうな顔をして、多々良を見据えている。



一方の王妃はおろおろと、自分の夫と息子を忙しなく見比べていた。



「確かか?」



ふと王は視線をはがすと、王妃を振り返った。



「え?」



上の空だった王妃は気の抜けた返事を返す。



「確かに、あれはお前の息子か?」


「そんなの、わかりませんわ。
別れたのはあの子が赤ん坊のときなんですから。」



それもそうだと王はまた多々良に向き直った。



「お前が妻の息子だという証拠は?」



多々良は黙ってペンダントを掲げた。



王も黙って王妃を振り向く。



彼女は唇をわななかせながら、震える声で叫んだ。



「たしかに、私は子どもを預けるときにあれを持たせました!」



家臣たちはざわざわと口々に言葉を交わし始めた。



王だけが落ち着いている。



多々良は真っ向から王の威圧的な視線と対峙した。



「下がれ。」



唐突に、王はそう告げた。