蜃気楼

愛している。



ぶっきら棒で、乱暴で、女の子らしくなんかないあの架妥が、愛しいんだ。



彼女を愛している。



僕の力でなんとかなるのなら、なんとしてでも助けて見せる。



どんなことだって、する。



「お前は敵だ。」


「…うん…。」


「でも、都楼が信用した男なんだ。
架妥が惚れた相手なんだ。
俺だって、気の置けない奴だと思った。」



今なんて?



多々良はゆっくりと呉壽を見上げた。



「あぁ、言った。
架妥はお前に惚れてるよ。
口に出さなくったって、わかる。
ずっと架妥の世話をしてきたんだからな。」


「待って、そんな素振り僕知らない…。」


「都楼だって気付いてた。
だから、お前を仲間に入れた。
架妥の勘は鋭いから、それを知ってるから、あいつが認めた奴ならって…。」



呉壽はくしゃりと顔を歪めた。



「なのに、お前は王子なんだ。
俺達が最も憎んでいる奴らの仲間なんだ。
頭を奪った、憎むべき相手なんだ!」


「頭を奪った?」



聞き返したが、呉壽は走り去ってしまった。



多々良は呆然としたまま残される。



執拗に都楼が軍を攻める理由。



架妥が嫌悪の色を明らかにする理由。



…それは、父親を奪われたからだったのか。