蜃気楼

「その頃にはもう、都楼は生れてたな。
赤ん坊のときから、素質のあるガキだったなぁ…。」


「架妥は?」



多々良は一番気になっていたことを聞いてみた。



呉壽は話の腰を折られて少し不機嫌そうだったが、すんなりと話してくれた。



「架妥は、俺が颪に入って数年してからやってきた。
突然、頭が腕に抱えて帰ってきてよ、俺の娘だなんて言うんだ。」


「…隠し子?」


「まさか!」



呉壽は声を上げて笑った。



「頭はかみさんに一途だった。
あとから聞いた話じゃ、頭の死んだ兄貴の娘だって。」


「へぇ。
…じゃあ、都楼とは従兄の関係なんだ?」


「ああ。
本人たちは知らないがな。」


「どうして?」


「頭は昔家を飛び出して、兄貴に合わせる顔がなかったらしい。
で、言うに言えなかったんだとよ。」



架妥は、桂月を親父と呼んだ。



もしかしたら、本当のことを知っていてそう呼んでいたのかもしれない。



どちらにしても、桂月にとって架妥は本当の娘だったんだろう。



架妥にとっても、桂月は父親。



その父親の跡を継いで、二人は颪を守っている。



「…架妥はな。」



呉壽が静かに言った。



「勇敢でいい奴なんだ。」