蜃気楼

「呉壽(ゴジュ)、放っておけ。
説明が面倒だ。」



呉壽と呼ばれた男は、ちょっと肩をすくめて、多々良の懐に手を差し入れる。



山賊?



金目当てか?



自分が襲われている理由に合点がいって、多々良はとたんに可笑しくなった。



自制が間に合わず、笑い声が漏れる。



二人は驚いていったん手を止めた。



「何笑ってやがる。」



気味悪そうに、呉壽が顔を歪める。



少年も無言で多々良をねめつけた。



「貴方たち、山賊なんでしょう?」


「ああ。」


「なら、僕を襲っても無駄だよ。
お金も金目のものも、一切持ってないもの。」


「馬鹿が、そんな嘘に騙されると思うか。」



本当だよ。



明日のあてさえない。



気のすむまで調べてくれてもいい、と言うと、呉壽は一度多々良の頭を叩いて手を動かし始めた。



「…本当に無ぇ。
何にもだぜ、架妥。」


「…あぁ。
なんなんだこいつ。」



二人は手を止め、しかし多々良を解放せずに相談を始めた。



「どうするよ。」


「何も盗るものがないんだ、解放するほかないだろう。」