蜃気楼

ふーっ、ふーっと荒い息を吐き出し、獣のように唸る。



多々良はぺたりと尻餅をついた。



怖い。



僕がなにをしたっていうんだ?



都楼は何を怒っているんだ?



「都楼、説明してくれ。」



呉壽が弱り果てた声で懇願する。



都楼はようやく興奮を収め、怒りを押し殺すように拳を握りしめて、そして低い声で言った。



「そいつは、敵だ。」


「は?
スパイか?」



一人の声に、みんなが緊張するのが感じた。



多々良に鋭い視線が注がれる。



一瞬の場の変わりように、多々良は慌てて否定した。



「違う!」


「同じようなものだろ。」



都楼は怒りに燃えた瞳で、多々良を見据えた。



「こいつは、王家の人間だ。」



その場が凍りついた。



「王家の、人間?」


「こいつが?」


「でも、貧相だぞ。」


「あぁ、王子にしては、素朴すぎる。」



都楼は冷笑する。