蜃気楼




その夜、都楼が帰ってきたのは、みんなが寝静まった夜中だった。



交代を拒否して見張りを続けていた架妥は、都楼の姿が見えたとたんに駆けだした。



「都楼!」



無傷とは言えないが、大きな怪我を負っていない姿を見て安堵する。



「ただいま。」



いつもと変わらぬ口調で言いながら、都楼は架妥の頭を撫でた。



「心配した…。」


「ちょっと、探ってた。」


「探ってたって、敵の根城?」



うん、と頷いて、都楼は崩れるようにして座り込んだ。



やはりさすがの都楼といえど、疲労の色は濃い。



甲斐甲斐しく手当をしてやりながら、架妥は続きを促した。



「どうだったんだ。」


「んー、さすが、黒いものが渦巻いてたよね。」



都楼が言っているのは、金か、巻き上げたものか。



「どうやら連中、完全に仲間割れ起こしてるみたいだよ。」


「……どういうことだ?」


「下の連中の独断で、横流しがされてたってこと。」


「というと?」


「上を裏切った下っ端が、相手国に食糧やら金を流してんだよ。
戦争に負けても、自分たちの立場を守ることを約束させて。」



なるほど、過剰なまでの略奪はそれが原因か。